第132章

展示ホールの中、柔らかな照明が一枚一枚の絵にふわりと降り注いでいる。空気には、かすかなテレピン油と白檀が混ざり合った匂いが漂っていた。

大島莉理と田中辰哉は肩を並べ、抽象画の油彩の前に立つ。

キャンバスを覆うのは、深い群青と暗い臙脂のうねり。荒々しいのにどこか抑制された筆致が、闇の底で押し殺した熱だけを脈打たせている。

「構図が面白いな」

田中辰哉の低い声が落ちた。

「作者はわざとここで筆を止めている。余白を観る側に渡して……その先を補わせるんだ。余韻を、体で感じさせる」

大島莉理も息をのむほど圧倒され、思わず頷く。

「言い切らない言葉みたい。だからこそ可能性が無限に広がる。こ...

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